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被相続人の通帳から使途不明の出金があったらどうするか

Ⅰ 相続が開始したら残高証明書を入手

相続が開始した場合、相続人は、銀行預金、株式、土地建物といった財産について金額等や所在場所などについて調査することになります。
この際、被相続人が有していた銀行預金については通帳を確認し、残高を確認することになるものと思います。

そこで、取引のある銀行の支店(もしくは郵便局、農協など)に出向き被相続人の亡くなった日(つまり相続開始の日)現在の日付の残高証明を入手することが一般的かと思います。

残高証明を確認することにより、金融機関ごとの預金についての存否が確認できます。

Ⅱ入出金状況を過去にさかのぼって確認することが必要

 ところが、じつは相続税の申告をする場合には、残高証明や通帳の記帳等で預金ごとに残高を確認するのみでは不十分なのです。

1.なぜ、過去に遡って通帳を確認しなくてはならないのか

 なぜ、残高証明や通帳の記帳等で預金ごとに残高を確認するのみでは不十分なのでしょうか。

 通帳に記入された取引を遡って、入出金の状況について確認する必要があります。なぜなら、過去の入出金の状況によって、相続人が思わぬところから相続人が気づかなかったもしくは知らなかった財産の所在が明らかになる可能性があるからです。

 たとえば、3年前の〇月〇日に支出があり、確認したら、たとえば投資信託を購入していたり、保険に加入していたりという事実が判明することもあります。

2.申告漏れが税務署に指摘されてしまうこともあり得る

過去の入出金の状況について確認をせずに残高証明等で確認した各預金口座の残高を申告書に記載したのみでこれを提出することもできますが、後日税務署より、申告漏れの財産があるとの指摘を受け、修正申告をしなければならないこともあり得ます。

気を付けるべきなのは、
不明支出のあった日付の前後で、例えば他の家族の口座に入金がみられるような場合や、
たとえば子供のためにリフォーム資金を出していたなど被相続人がほかの家族のために資金を拠出している場合には、
贈与があったと認定されてしまうこともあり得ます。

ですので、過去の通帳について可能な限り入手金を確認したほうが良いと思います。

Ⅲ 何年遡って調べるのか、通帳が処分されている場合はどうすればいいか

 1.何年遡ればいいのか

それでは、銀行預金は過去何年間さかのぼって入出金を確認すればよいでしょうか。

国税庁の相続税申告チェックリスト(名古屋国税局版)のチェック項目には「相続開始前5年程度の期間における入出金を確認したか」と書かれています。

なお、私が相続税の申告をお受けした場合は、できる限り過去7年間の通帳のご提示を依頼しています。
なぜ7年間かといいますと、租税債務の時効が7年と定められているため、仮に7年以内前の贈与等の申告必要な取引が発見されれば期限後申告等を行う必要があるためです。

2.通帳が処分されている場合や見つからない場合はどうすればよいか

ところで、亡くなったご本人(被相続人)が生前に通帳を処分していた場合や探しても過去の通帳が見つからない場合もあります。

このような場合には、若干の手数料がかかってしまいますが、取引銀行に依頼をすれば過去の取引明細が記載された書類をプリントアウトしてもらえます。

当事務所でも、できる限り、申告をご依頼いただいたご遺族に過去の通帳もしくは銀行での過去取引の出力の依頼をお願いしています。
ただ、通中の過去の取引のご提示をお願いするとなりますと、ご依頼様との信頼関係がなくてはならないことはもちろんです。

Ⅳ 不明出金がある場合どうすればよいか

 1.不明出金がある場合は、税務調査になる可能性が高い

過去の通帳を何年もさかのぼって確認をするといっても入出金の金額はまちまちです。
通常は、大体数十万円から百万円単位の金額での入出金についてその入出金先を確認します。

確認してゆくと、何に使ったのか、どこに行ったのかわからない不明支出が記載されていることがあります。
他の口座に移動が確認できれば問題はありませんが、他の家族の名義の口座に移動している場合は、もちろん贈与税申告の問題が出てきます。

不明な支出が存在している場合には、税務署の調査になる可能性が高いといわれています。
税務署は銀行等の金融機関の取引口座について調査をする権限があり、被相続人についての銀行取引を確認しています。

ですので、不明出金があった場合には、申告期限の間にできる限り事実関係を確認すべきであると思います。

とは言っても、「死人に口なし」というとおり、相続人としては被相続人がなぜ預金を引き出したのかすべてわかるわけではないと思います。どうしても解明できない不明支出はどうすればよいでしょうか。

課税庁側も具体的な証拠もなく課税することはできないので、「不明」というのみで課税されることはありません。
しかし、税務調査ともなれば、調査官からは、何か記憶はないか、なにかの資料がどこかにないかと厳しく追及をされることになります。
「ないものはない」と言っても、相手側も簡単には「はいそうですか」となるわけではありません。

相続税の申告は、いうまでもなく「申告納税」です。ですので、不明な事項はできる限り事実を解明する努力は必要です。

2.不明出金についてどのように調べればよいか

では、どのように調べてゆけばよいのでしょうか。

たとえば、
その出金があった近い時期に、家族に大病をして入院をした人がいた、
居宅の大規模な修繕を行った、
孫や子供について入学、就職、結婚などのお祝い事があったなど、
記憶を遡って確認をしてみると解明されることもあります。

具体的に支出をした振込用紙や領収書等がなくても、この時期に孫が入学をして入学金を払っているが、その学校の入学金がほぼ同じ金額だということを示せば、一定の証拠力として認められる可能性が高いといえます。

税務上、一定の事実の存否について、納税者は「証明」する義務まで負わず「疎明」でよいとされています。
疎明とは、相手方が一応確からしいという推測を抱く状態で、「証明」より程度の低い証拠の提示とされています。

そのほか、生活費のストックや緊急時の備えとしてまとまった金額を支出して押し入れなどに保管されている事実はないか確認します。大体確認する場所は、タンスの中、仏壇の下の引き出し、そのほか被相続人が大切なものを保管している場所は確認すると判明することもあります。

ところで、よくドラマなどで出てくるような、
畳をひっくり返したら一万円札がギッシリ敷き詰められていていたとか、
庭の置石のわきをここ掘れワンワンで掘ってみたら袋の中に株券がギッシリ・・・
これらは、隠す意図が推察されて、話の次元がちょっと違いますね。

3.不明出金の内容で考えられるもの

不明出金については、上記のようなもの以外は、私の経験上は大体下記の3つに絞られます。あくまで私経験上です。

①借金の返済
被相続人が借金や未払を残していて、亡くなる前に相手に返している場合があります。

私の経験では、借用書が残っており、返済日と金額がほぼ一致していたものがありました。

②供養の費用
通帳から6百万円の支出があり、税務調査の際に確認を求められたが、相続人は墓の建立費用である旨を説明し領収書も提示をしました。
税務署側は墓地埋葬料としては多額すぎるため領収書の信ぴょう性も含め最後まで疑っていましたが。この件での課税はありませんでした。
その後、別の業務で相続人さまのところへ行った際に、帰りのついでに墓まで乗せていってほしいと頼まれそのまま、被相続人様のお参りもお付き合いすることになったのですが、大きく立派な墓をみて「こりゃ600万はするわ」と思ってたら、「調査の時に、あんたも疑ってたやろ」と笑われてしまいました。

③ 愛人
もう一つは、愛人です。愛人の方にお金を渡しているもしくはその疑いがある支出です。

調査のさいに、愛人だった方に事実を確認して認めた場合と認めなかった場合とあります。

愛人の方がこれを認なかったケースでは、「お金はもらってない」と回答し、迷宮入りになりました。

愛人の方が「お金をもらいました」と認めたケースでは、私がお受けした申告事例ではありませんが、この愛人さんの贈与申告が問題となりましたが、すべての金額が贈与となるわけではなく、ある部分の金額は生活支援のための金額として取り扱われ、全額の課税がされるわけではなかったようです。

Ⅴ 相続開始直前の預金の引き出しについて忘れないようにしましょう

もう一点、通帳を確認する際に気を付けるべきことがあります。
お亡くなりになる直前に引き出されている金額の有無を確認する必要があります。

被相続人ご本人が引き出した場合はもちろん、
被相続人がお亡くなりになる直前に奥様などの相続人の方が葬式費用その他の必要資金として引き出していることがよくあります。

これらの引き出した現金についても、相続開始日現在未使用の残高については相続財産となるため、忘れてはいけません。
必要に応じて現金の実査を行い金種表(10000円〇〇枚・・・500円〇〇枚と記載)などを作成することもあります。

まとめ

①被相続人の財産を調べる際には残高証明書などで相続開始日現在の残高を確認するのみではなく、過去に遡って通帳の入出金の確認をする
 ことが必要。
②入出金記録は過去5年から7年間遡って確認するべきである。
③通帳が廃棄されている場合や見つからない場合は、取引銀行に依頼して過去の履歴を入手することができる。
④不明出金があった場合には、その通帳記載の取引日付近であったリフォームや家族で、入院した人があったか、入学や結婚等の祝い事があっ
 たか等、過去の事実について疎明資料を収集しておく。
⑤相続開始直前に引き出した現金についても相続財産に算入されるため失念しないよう注意すべき。

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