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生前贈与について -その2-                  ~なんちゃって贈与にならないように~

「なんちゃって贈与」にならないように

前回、「前回贈与ーその1ー」では、贈与契約は事実の証明のために契約書の作成が重要であること、未成年者への贈与についても可能であることを説明させていただきました。
ところで、相続対策として預金などの財産を子や孫の名義に変更したにもかかわらず、税務上、贈与が有効になされていないと判断されてしまい相続税が課されてしまう場合があります。
このような「なんちゃって贈与」にならないように気をつけなくてはなりません。 

預金の事例で考えてみましょう

預金の例で、ひとつ事例を考えてみます。
 
Aが自分の孫の甲、乙の名義でそれぞれ100万円の定期預金を作りました。

5年後、Aが亡くなり相続が開始しました。
Aの相続人B(Aの子、つまり甲、乙の父)は、相続税の申告をおこなうことになりました。

さて申告に際して、この甲、乙名義の100万円の定期預金については、すでに甲、乙の財産であるため、相続財産から除外してもよいでしょうか。
それとも、あくまでもAからの相続財産として相続税の申告をしなければならないでしょうか。

「なんちゃって贈与」とは

もしも、甲、乙ともに自分たち名義のこの定期預金が作られていたことを知らなかった場合でも贈与があったということができるでしょうか。

前回のその1で説明したとおり、贈与契約は「あげます」「もらいます」という合意があって初めて成立するものです。
ですので、当事者の一方がこの事実の認識をしていなければそもそも贈与自体が成立しないことになります。

したがってこのような場合には、この定期預金については、甲、乙の名義ではあっても実質上はAの財産と判断されて相続財産に算入すべきものと考えられます。

これを私は「なんちゃって贈与」と呼ぶことにしています。

それまで私は、「名義が異なる財産(後述のように「名義財産」といいます)」とか、「名義人が知らされていない財産」などと回りくどい言い方で顧客様に説明したいました。
ところが、とある金融機関の冊子を読んでいたら「なんちゃって贈与に気を付けましょう」という見出しの記事を見ました。
どなたが書かれたのかも記憶がなく、ほかの税理士さんでこのような言い方をしている人がいるかどうかもわかりませんが、なかなかいい言い方だと思いますよね。
オリジナリティーはまったくありませんが、この表現を拝借させていただいています。

贈与であると認められた場合は

ところで、この定期預金について、贈与であると認められた場合にはどうなるでしょうか。

Aの財産から甲、乙が贈与により定期預金を取得したことになり、Aの相続が開始した時点では、Aの財産ではなく、相続財産に算入する必要はないことになります。

一方でこの場合の預金を受贈した甲、乙の贈与税申告についてはどうでしょうか。
この事例では、贈与された財産は、それぞれ110万円以下であるため、贈与税はかからず、申告も必要ありません。
もちろん、贈与されたとされる財産が110万円を超えている場合には、当然、贈与税の申告が必要となってきます。

問題は、こうした被相続人(この場合A)以外の名義の預金が相続開始後に発見された場合です。

このような被相続人以外の名義の財産のことを「名義財産」(預金については名義預金)といいます。

名義預金などの名義の異なる財産について、これが相続財産となるのか、贈与された財産とされるのかについては、それぞれの事案の事実関係を総合的に検討のうえ判断してゆくほかはありません。

それでは、この定期預金の場合のように、贈与となるのかそれとも相続となるのかについて、どのように判断をすればよいのでしょうか。これを考えてみましょう。

贈与か相続かどのように判断すべきなのか

それでは、この定期預金の場合のように、贈与となるのかそれとも相続となるのかについて、どのように判断をすればよいのでしょうか。これを考えてみましょう。

① B,Cが事実を知っていたか

上記に説明したとおり、甲および乙がこの定期預金についての事実を全く知っていなければ、定期預金の実質的な所有者はAということになり、名義に関係なく、Aの相続財産として相続税申告が必要となります。

② 贈与契約の有無

それでは逆に甲、乙がこの事実を知っていた場合についてはどうでしょうか。
実は、単に事実を知っているのみでは、贈与があったものと認められるとは限りません。
やはり、贈与契約の存在(つまり「あげます」「もらいます」という合意)が前提となります。
ですので、贈与契約は、口約束で成立するものではありますが、この事実を裏付けるための契約書の作成は必要と思われます。

③ 預金を誰が管理していたか

この預金を誰が管理していたかについても、判断についての重要な要素となります。
甲、乙の名義でありながら、通帳と印鑑がAの手許に保管されてた場合には、この定期預金は実質的にAの財産であったと判断される可能性があります。
ただし、甲または乙が自己の意思でAの金庫に保管してもらうよう頼んでいた場合など、一概には判断できないこともあります。

④ 果実を誰か収受したか

ここでいう果実とは、法定果実のことです。
例えば、株式を保有していれば配当金が該当し、土地建物を賃貸していれば、地代家賃が果実ということになります。
上記の事例の定期預金でいえば利息が法定果実となります。
誰が果実の収受を受けていたかについても、判断のための重要な要素となりえます。

⑤ すでに贈与税の申告が完了していた場合

上記事例のような110万円の贈与であっても、贈与税はゼロ円として申告することは可能です。
そこで、贈与税の申告書を出しておけば、贈与契約があったという証拠になるのではないかと考える方もいるか思います。

たしかに、贈与があった、もしくは贈与の意思があったと判断されることも多いと思われ、判断のための一つの重要な事実ではあると思います。

しかしながら、贈与税申告の有無は、生前に贈与があったかどうかの判断とは、基本的には無関係とされることもあり得ます。

課税側が贈与税の申告がないためこれを相続財産として課税しようとしたのに対し、納税者側が110万円以下の贈与であったために申告をしなかっただけであり相続財産ではないと争われた事例について、裁判所は、贈与税申告有無が贈与契約の要件ではないとした判例があります。

上記事例の場合には、この判例とは逆に贈与税の申告が単なる形式に過ぎないと判断されてしまう可能性がないとは言い切れません。

生前贈与についてーその2― まとめ

相続対策のつもりで、子や孫名義で預金などの財産を異動させたとしても、一人で勝手に手続きをしているのみでは、贈与と認められない可能性が高いことが理解できたと思います。
生前贈与を検討する際には、税理士にご相談のうえ判断していただければ幸いです。

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